「まさか、佐吉が家族を殺したのかな」

 ぽつりと、冴が呟いた。
 千之助は立ち止まり、ちらりと掘っ立て小屋を見る。

 千之助的には、死体が崩れ去っていてくれたのは有り難かった。
 あんな状態の死体、どう考えたっておかしい。
 普通に考えれば、この村内で人があんなかさかさに干涸らびるなどあり得ない。

「野郎が建てたっていう小屋は、どの辺りなんかな」

 千之助は、山のほうを振り仰いだ。
 勢い込んでここまで来た冴だったが、不気味な空気を感じているのか、すっかり意気消沈している。
 ちら、と千之助を見た。

「何となく、そこまで行くのは危ないような気がするね。よくわからないけど、ちょっと怖いよ」

「そうさな。お冴さんは危険かも」

 何しろすでに、とっぷりと日は暮れている。
 こんな夜に山に入るのは、ただでさえ危険極まりないだろう。

「千さんは行くってのかい?」

 冴が縋り付く。

「危険だよ。ね、明日にしようよ。ていうか、何か物騒なことが起きてるんだったら、村人に声かけて、皆で行ったほうが良いよ」