「・・・・・・何か寂れてるね。昨日今日いなくなったわけじゃないみたい」

 一歩土間に入って、冴がぐるりと家の中を見渡す。
 まさか自分の足元すぐにある塵の山が、佐吉の家族の成れの果てだとは思わないだろう。

 だが冴の目は、塵の中にあった匕首に吸い寄せられた。

「これは・・・・・・」

 手を伸ばして、匕首を取る。
 そして、塵に埋もれる端布を引っ張った。
 冴に引っ張られて、塵の中から粗末な着物が現れる。

「ねぇ、この着物。きっと佐吉の家族のだよね? でもこの匕首、よく見えないけど・・・・・・何か付いてるよね・・・・・・」

 目が幾分慣れてきたとはいえ、暗いことには変わりない。
 だが冴は、匕首に血がついているのに気づいたようだ。

「・・・・・・何かあったんかな。乱闘でもあって、逃げ去ったとか?」

「やりかねないけど・・・・・・」

 冴は血のついた匕首を放り出した。
 ばさ、と塵の山に落ち、元・死体が、ぶわ、と舞い上がる。

 さりげなく千之助は、冴の腕を引いて塵から守った。
 不用意に穢れを身につけるのはよろしくない。

「ま、いねぇんならしょうがねぇ」

 陰鬱な気分を振り払うように軽く言い、千之助は冴を連れて、掘っ立て小屋を出た。
 外は月明かりが煌々と照って、歩くのには不自由しない。