始末屋 妖幻堂

「ちょいとごめんよ」

 ごんごんと薄い板を叩いても、中から返答はない。
 中にあるのは死体なので当たり前なのだが、千之助はあえて何も言わず、冴の横で様子を窺った。

「留守かい?」

 すっとぼけて言う千之助に、冴は首を傾げる。

「佐吉はいないだろうとは思うけど、兄貴や父親はいるはずだよ」

 千之助は、戸に手をかけた。
 明け方に千之助が来たときと同じく、戸はあっさりと開いた。

 あの妙な死体を冴に見せて大丈夫だろうか、と思いつつ、千之助は静かに戸を引き開ける。
 外がすでに暗いため、家の中は真っ暗だ。

「清兵衛さん。いないのかい?」

 千之助の後ろから、冴が覗き込む。
 やはり佐吉はいないようだ。

 千之助は、暗闇に目を凝らした。
 死体があった場所を見る。

 だが、そこには塵のようなものが、山を作っているだけだった。
 からからに干涸らびていた死体は、崩れ去ったようだ。