「ああ。俺っちは『千』之助だぜ。救済が仕事さね」

「・・・・・・!」

 里の目が大きく開かれる。
 そして、諦めたように身体の力を抜いた。

「そうか。そうだったんですね。・・・・・・大変失礼致しました」

 膝を付いて頭を垂れる里の肩に、千之助は手を置いた。

「そんな畏まる必要はないさね。俺っちは、ほんのちょっと、その力を得ただけの、一風変わった小間物屋。それだけの男さね」

 にやりと笑い、ぐるりと洞窟内部を見渡す。

「あの辺りに、小さい祠を作るかね。羅刹天の像は、俺っちが腕によりをかけて作ってやるよ。ちょいと時間はかかるが、まぁ見ててくれや」

「わかりました。楽しみにしておきますわ」

「ちょいとだけ、また寂しい思いをするかもしれねぇが、堪忍しとくれよ」

 そう言って笑い合い、千之助は真言を乗せた剣を、再び頭上に掲げた。

「調伏」

 里に向けて、剣を払う。
 剣自体が小さいので、剣先が届いたところで大した怪我にもならないだろうが、そのように小さな剣を振っただけとは思えないほどの風が起こった。

 ぶわ、と風が吹き抜けた後には、何の跡もなく。
 里の姿も、忽然と消えていた。