「嫌だ・・・・・・。あんな、誰も来ないような寂れた祠で、またずっと一人でいないといけないなんて・・・・・・」

 千之助から逃れるように、じりじり後退していた里の背が、反対側の岩にぶち当たる。
 千之助は里に近づきながらも、彼女を宥めるように、掲げた剣を下ろした。

「そうか。確かにそいつぁ、可哀相だな。『お里』と『羅刹天』が別個のモンなら切り離しも可能だが・・・・・・。残念ながら、『お里』ってのぁ元からいねぇだろ?」

 祠から抜け出した羅刹天が、お里という娘を乗っ取ったのなら、切り離した上でお里だけを長に返すこともできよう。
 そのほうが、千之助としても後々楽なのだが。

 だがおそらく、お里という娘など、元々この世に存在していなかったのだ。

「誰も来ない祠が嫌だってのはわかるが、ああいうところにあるからこそ、神秘的で神々しいって、ヒトは思うもんだぜ。まぁでもやっぱ、寂しいのには変わらねぇよな。小さい支社を、ここに作ってやるよ。ここなら頑張れば、誰か来てくれるぜ」

 千之助の言葉に、里は少し目を見開いた。

「・・・・・・本当か?」

 疑うように、千之助を見る。