「何やってるんだい」

「あ、いえ。姐さんのところに行くまでに、あたしが手前の小菫姐さんに躓いてしまって、姐さん方を起こしてしまったんです」

 慌てて呶々女は、必死で謝っているように小さくなって見せた。
 遊女らも、今の話をおさんに聞かれる訳にはいかない。
 わざとかったるそうに鬢を掻き、気をつけるんだよ、と言うと、それぞれの布団に戻った。

 おさんはちらりと皆を見回したが、特に疑う素振りも見せず、呶々女に視線を戻した。

「もう良いから、そろそろ朝餉の支度を手伝いな」

「わかりました」

 芙蓉に一つ頭を下げ、呶々女は桶を抱えて部屋を出た。
 廊下に出ると、おさんが立っている。

「何を話してたんだい」

 少し前を歩きながら、おさんが問う。

「話すというか・・・・・・怒られてたんですよ。皆寝てるところを起こされた訳ですから」

 いかにもドジ踏みました、というように、呶々女はぽりぽりと頭を掻く。
 見かけがかなり幼いので、そう難しい話もできないと踏まれたようだ。
 おさんはそれ以上追求せず、呶々女を台所に追いやった。