---冴? いや、でも・・・・・・---

 人の気配にしては妙だ。
 今も、僅かしか気配を感じない。

 千之助は、じっと障子を睨んだ。
 ややあって、音無く障子が開く。

 千之助は目を見開いた。
 そこにいたのは冴ではなく、里だったのだ。

 驚く千之助に、里は微笑みかけた。
 部屋に滑り込み、障子を閉める。
 何をしたわけでもないのに、それだけで、もうこの部屋には誰も入って来られないような気がした。

 里は千之助の傍に座ると、再び艶やかに微笑んだ。

「このような鄙里に、都からのお若いお客人とは。ふふ、冴さんが夢中になるのも、わかりますわ」

 指先で軽く押さえる赤い口元が、何とも言えない色気を湛えている。
 長く岩山で暮らしていたとは、到底思えない。
 鄙っぽさなど、微塵も感じられない艶やかさだ。

「でも・・・・・・」

 里はそのまま、黒目がちの瞳を千之助に向ける。

「同じ女子なら、あのような鄙娘よりも、わたくしのほうが楽しめましてよ」

 言いながら、そっと千之助の手を取る。
 目は千之助を捉えたまま、里は少しはだけた己の胸に、千之助の手を導いた。

 誘い方といい、確かに冴とは大違いだ。
 千之助の手は里の胸にあるが、いまだ里は着物を脱いでいるわけではない。

 だがこっちのほうが、ぞくぞくするような快感が駆けめぐる。