---お互いが鉢合わせしねぇように、亡八が見張ってたのか? でもそんな四六時中べったりできるわけもねぇ。何せ、廓は女の城だ---

 考えを巡らす千之助は、伯狸楼にはおさん狐がいることを思い出した。

---ははぁ、おさんが操ってた可能性もあるな。あいつも妖狐の端くれだ。妙な術者よりは、よっぽど役に立とう---

 そう思い至って、千之助は身体を起こすと、文机に向かった。
 手早く傍の紙に何かを書き付け、以前狐姫に向けてしたように、行灯の火を使って文を送る。
 宛先は、伯狸楼の呶々女。

「・・・・・・よし」

 無事に火が戻ってから、千之助はちょっと考えた。

「牙呪丸に言っておいたほうが良いかな? ・・・・・・いや、あいつに言ったら、即呶々女の助太刀に回って、返ってややこしくなるな・・・・・・」

 こめかみを指先で押さえて、千之助はため息をついた。
 千之助も重々、牙呪丸の性格は認識している。
 下手に呶々女の名前を出せば、周りのことなどお構いなしに突っ走る牙呪丸だ。

 とりあえず黙っておこうと決め、千之助は行灯の火を吹き消そうとした。

 そのとき。

 妙な気配に、千之助はふと顔を上げた。
 障子に、人影が映っている。