『そうかい? なら良いけど。くれぐれも里娘なんかに手ぇ出すんじゃないよ』

「わかってらぁな。それより、そっちゃどうだい? 何かあったか?」

『それがさ・・・・・・』

 一通り狐姫の話を聞き終えた千之助は、腕組みして考え込んだ。

「あんましのんびりしてられねぇな。・・・・・・よし、じゃ俺っちはこれから、佐吉の家に行ってくるぜ。変に夜が明けちゃ、また冴の奴がまとわりつくかもしれねぇし」

 腰を上げかけた千之助に、狐姫はゆらりと不気味に揺れた。
 少し、炎が大きくなる。

『ちょいと旦さん。冴って何だい?』

「ん? ・・・・・・ああ、いや、何でもねぇ」

 やば、と思い、はぐらかすも、狐姫はずいっと千之助のほうに寄る。

『さっき、旦さんは里娘なんかに手ぇ出さないって言ったね? まさかあちきに、嘘付いてるわけじゃあるまいね?』

「嘘なんざ、付くわけねぇだろ。あちちっ。おい狐姫、あんま寄るんじゃねぇよ。いくら狐火だって、狐姫が怒れば熱持つんだからな」

『何さっ。あちきよりも里娘のほうが良いってのかい?』

「そんなこっちゃねぇ。生身でありゃ、狐姫のが良いに決まってるだろ。何せ、極上の毛並みなんだから」