---まぁ、働き口なんぞ、冴の家ぐらいしかないだろうしな---

 そう思い、千之助は老婆の後ろの家の中を覗き見た。
 そう広くない家の中には、他に人の気配はない。

「爺・・・・・・。もしかして、太助?」

 ぽんと手を打つ冴に、老婆は笑みを浮かべて頷いた。

「そうか、太助にはよく遊んでもらったんだ。薪割りで出た屑で、おもちゃ作ってくれたりね。そうそう、病はどう?」

 純粋な村人からは一線を引かれているとはいえ、変に差別することなく話しかける冴に、老婆は少し悲しそうな顔をした。

「爺は、こちらに帰って来てから程なく・・・・・・」

 静かに首を振る。

「そ、そう」

 何と言って良いかわからず、冴は居心地悪そうに、ちら、と千之助を見た。
 予想していたこととはいえ、やはり実際に聞くと、少々衝撃だったようだ。

 千之助は、ちら、と隣の家を見ながら口を開いた。

「その、菊ってのは?」

 もしかして小菊のことだろうか、と思ったのだが、老婆はまた、悲しそうに首を振る。