「こらぁまた・・・・・・。えらいところに住んでるんだな」

 そこに行くには、細い道が一本だけ。
 土地という土地もないところに家を建てているため、ほとんど家が引っ付いて長屋のようになっている。
 そしてその長屋は岩の陰になってしまっているため、その土地自体、暗い空気が立ちこめている。

「お冴さん、あんたはどっか、知ってる家はねぇのかい」

 狭い一本道を歩きながら、千之助は冴に聞いた。
 冴はふるふると首を振る。

「家なんざ知らないよ。でも、あんな小さい集落だ。誰かに聞きゃあわかるだろ」

 集落に入ると、冴は千之助の袖を掴んだまま、一軒の家の扉を叩いた。

「ごめんよ。ちょいといいかい?」

 冴の声に、引き戸が開く。
 痩せた老婆が、顔を覗かせた。
 冴を見、驚いたように目を見開く。

「こ、これは長の・・・・・・。こ、このようなところに、一体何用で・・・・・・」

「あたしを知ってんのかい」

 崩れるように平伏する老婆の前に、冴はしゃがみ込んだ。

「も、もちろんでございます。うちの爺も、隣の菊もお世話になりました故」

 どうやらこの家の者が、冴の家で働いていたらしい。
 冴の言うように、ここから長の家に働きに出ていた者のことは、誰でもわかるようだ。