「う~ん、里が女中としてうちに来てからしばらくは、特に何もなかったと思うんだ。うちに来た頃から、里はもう、そんな幼くなかったし。一通りの仕事はできてたからさ、普通に、女中として働いてたよ」

「お冴さんの家に来たのぁ、いつ頃だい?」

「いつかな。四年ぐらい前かな? そんとき、二十歳ぐらいだった」

長く岩山で暮らしてたから、歳がわからないんだって、と冴は言う。

「で、一年ぐらい経った頃からかなぁ。女中らが辞めだしたのは」

「いきなりどんどん辞めだしたのかい?」

「うん・・・・・・いや。いろいろなんだ。病だったり、やけに失敗が多くなって、お父が暇を出したり」

「失敗が多くなる?」

「頼んだことを忘れたり、何をどこにしまったかが、わからなくなったり」

 ふ~む、と千之助も、手元の山菜を摘みながら考えた。
 要は、物忘れが激しくなったということか。

「女中って、皆婆みたいな年寄りだったのかい?」

 だったら珍しいことではない。
 皆が皆、というのは解せないが。

「いや、全然。皆若いよ。婆はさ、お父の代から仕えてるんだ。お母が早くにいなくなったから、あたしは婆に育てられた」

 その婆が、いまだにしっかりしていて、若い者らが仕事に支障をきたすほど、物忘れが激しくなるとは。
 しかも、いきなり。