頷き、冴は足早に千之助を引っ張って、岩山とは反対側へ移動した。
 いつもの冴とは違う、何かに怯えたような表情だ。

 山菜とはいえ、そう山に入らないでも採れるようだ。
 元々が山間の村なので、千之助が初めに突っ込んだ湖まで行かなくても、そこここに食える葉はある。
 少し歩いたところで、冴は山菜を採りながら、口を開いた。

「元々ね、うちには結構、女中がいたんだ。筆頭は今もいる婆だけど、その他にも四、五人。下男もいたよ? 合わせたら、結構な人数でさ」

「やっぱりな。あんな広いお屋敷なのに、女中が一人しかいねぇってのが、どうも解せねぇと思ってた」

 周りには誰もいないが、一応声を潜めて会話する。
 千之助の言葉に、冴は一つ頷いた。

「千さんも、どっか妙だと思った?」

 今まで誰にも話せなかったのだろう。
 冴は千之助に、縋るような目を向ける。

「妙っつーか・・・・・・。とにかく、その女中や下男がいなくなったってのぁ、どういうことなんだ?」

 しばらく冴は、黙って山菜を摘んでいたが、やがて考えつつ話し出した。