「初めはね、凄く反発してたんだ。ただお父が、あんな若い、それこそどこの誰かもわからんような女に誑かされてるのが嫌だったんだけど。けど、そのうち何となく、里が怖くなったんだ」

 それで、下手に里の神経を逆撫でするようなことは控えるようにしたのだと言う。

「怖いって? 折檻されたとかか?」

 千之助の問いに、冴はふるふると首を振り、辺りを見回すと、傍の木の陰に隠れるように、千之助を引っ張った。

「そういうんじゃない。あのね、上手く言えないんだけど。あいつが来てから、昔からの女中がいなくなったって言ったろ。初めは普通に辞めて行くんだけど、その後、村からもいなくなってるんだ」

 千之助の眉間に皺が寄る。
 素早く長の屋敷のほうを窺うと、千之助は冴を山菜採りに誘った。

「何か不穏な空気を感じてるなら、目を付けられるような行動はしねぇほうがいい。岩山に行ったってのより、山菜採りに行ったってほうが、自然だろ」