半時ほどで、雨は止んだ。
 千之助は冴を伴い、村に戻った。

「汚れちまったねぇ。もぅ、千さんたら、何であんな山なんかに登ろうと思ったのさ。あんなところに、商品になるようなもの、ないよ?」

 笑いながら言う冴に、千之助は自分が小間物の仕入れに来ているという口実を思い出した。

「そういやそうだな。いやぁ、旦那さんの話で、女子が暮らす岩山ってのに興味が湧いてよ」

「またお里のことかい。もう千さん、何で男って人妻が好きなんだか」

 ぷぅ、と膨れる冴を、千之助は笑い飛ばした。

「そんなんじゃねぇよ。ただ、不思議だっただけだ。確かに何か魅力的なお人ではあるがね。そんな人だからこそ、あんな岩山から現れたってのぁ、興味の湧く話だろ」

「そう? 不気味じゃないかえ」

 ちら、と冴が、意味ありげに千之助を見た。

「あたしがあいつと仲良くしてるのはね、そうしないと、自分の身が危ういと思ったからさ」

 少し真剣な顔になって、冴は千之助のすぐ横についた。
 ひそ、と声を潜める。