「しょうがねぇな」

 千之助は自ら帯を解いた。
 濡れた着物を岩にかけ、冴を引き寄せる。

「旦那さんにゃ、申し訳ねぇな」

「うふふ。気にすることないって言ってるだろ。お里なんかより、千さんのほうが、よっぽどちゃんとした人間だ」

 同じように着物を脱いで、冴は千之助に抱きついた。

「俺っちは、都の小間物屋ってだけだぜ。ちゃんとした人間とは限らねぇ」

「十分さ。住むところも、職もしっかりしてる」

 千之助は、ひっそりと口角を上げる。
 『ちゃんとした人間』の意味が違うのだ。

 洞窟の入り口に降り注ぐ雨を見ながら、千之助は冴を抱きしめた。