「やれやれ。一応助かったな」

 千之助の声が、周りの岩に反響する。
 辿り着いた洞穴は、結構な大きさの洞窟だった。

「結構奥までありそうだな。・・・・・・ふん、生き物の気配もなし、と」

 ざっとその辺を点検し、千之助は少し奥まったところに、冴を座らせた。

「濡れちまったな。このままじゃ、風邪引いちまう」

 洞窟内をきょろきょろと眺めながら、千之助は燃料になるものを捜した。
 何もない空間に火を熾すことなど訳ないのだが、今は冴がいる。
 あまり妙なことはできない。

 折良く隅のほうに溜まった枯れ葉を見つけ、千之助はそれらをかき集めると、小さな火を焚いた。

「お冴さんも、火にあたんなよ。ちったぁ着物も乾くだろ」

 小さくなっている冴に声をかけると、冴は、さっと千之助に身を寄せ、彼の帯に手をかける。

「寒いよ。暖めておくれよ」

「おいおい。こんなところでかよ」

 少しはだけた千之助の胸に手を突っ込んでくる冴に、少々呆れる。
 だが、この状況では、他に方法がないのも事実だ。
 着物はずぶ濡れだし、このまま着ていたら体温を奪われる。