「ほんとだな。こりゃ、一雨きそうだ」

 あんまり何が起こっても動じない千之助が、のんびり呟いた途端、ぽつりと水滴が頬に当たった。

「あっ降ってきた」

 言うなり、みるみる雨は量を増す。
 これは戻るより、その辺りでやり過ごしたほうがよさそうだ。
 岩山なだけに、濡れると足元は滑りやすい。
 千之助だけならともかく、冴は危険だ。

「どっか、雨宿りできるところはねぇかな」

 きょろ、と辺りを見渡した千之助は、岩の上のほうに、何か小さな建物があるのに気づいた。

「あれは?」

 千之助の指差すほうへ、冴も顔を向けた。

「ああ、何か、祠があるみたい。でもあんなとこまで誰も行かないから、よくはわからないけど」

「祠か。あそこまで行けたら、雨も凌げるのにな」

 手を翳して見上げる千之助に、無理だよ、と言い、冴は一つくしゃみをした。
 日が翳った上に雨に打たれ、体温が奪われていく。
 祠を見上げていた千之助の目が、その下のほうに移動した。

「あそこに洞穴があるようだ。お冴さん、あそこまで頑張れるかい?」

 酷くなる雨に、視界もままならなくなった状態だが、冴は迷うことなく頷いた。
 千之助は冴の手を取り、慎重に岩山の縁を進んでいった。