次の日、小菊が起きると、辺りはしんと静まり返っていた。
 小菊に与えられたのは、二階の奥。
 手前の部屋には恐らく千之助が寝ていたのだろうが、今はことりとも音がしない。

 そろ、と障子を開けると、小菊は綺麗に片付いた部屋を横切って、階段を下りた。
 昨日通された一階の部屋を覗くと、千之助が背を向け、行李に商品を詰めていた。

「起きたか」

 背を向けたまま、千之助が口を開いた。
 小菊は少し迷った後、部屋の入り口に座って、頭を下げた。

「おはようございます」

 挨拶をしてから、少しだけ身体を部屋に入れ、そのまま千之助の背を見つめた。

 細身で小柄な千之助は、見る限り、とても頼りになりそうもない。
 が、どこか近寄りがたい空気を纏っている。
 威圧感など無縁のような感じなのに、どこか気圧される。

 不思議な人だ、と思いつつ、小菊はきょろきょろと部屋を見回した。
 狐姫の姿はない。
 小太は昨日のうちに、自分の家に帰った。

 もしかして今は、千之助と二人なのだろうか、と気づき、知らず身体が硬くなる小菊に、千之助は立ち上がりながら振り向いた。