言うだけ言って、小菊はその場に突っ伏して泣き出した。
 牙呪丸が、何か言おうと口を開きかけるのを、狐姫が素早く制する。
 この男が口を開くと、ろくなことがない。
 慰めの言葉でないのは明白だからだ。

「あちきが旦さんを慕ってるのは、本当だけどね。このあちきが、ただの男に入れ込むわけないだろ。牙呪丸だってそうだ。杉成や呶々女と違って、あちきや牙呪丸は『元から存在してた』。あんたも気づいたように、ヒトでないあちきらが慕う旦さんは、それ相応の人物だって思わないかい?」

 ややあってから、狐姫が口を開いた。
 小菊は相変わらず泣き続けているが、構わず狐姫は続ける。

「確かに廓からの足抜けは、おいそれとは請け負えない厄介事だ。花街は苦界だ。そこから抜けたい遊女は、それこそごまんといる。けどね、旦さんも言ったように、いくら苦界とはいえ、廓側はちゃんと金を払って女子を買い、躾けていくんだ。花街から出るには、身請けされれば良い話。己を磨いて、のし上がって、それこそ太夫にでもなれば、夢ではない話だ。そうなれば、借金だってきちんと返せる。その努力を怠って、ただ逃げ出すなんてのは、借金踏み倒すのと同じだよ」

「事実、この娘は踏み倒しておるわけだしの」

 油断すると、いらぬ口を挟む。
 狐姫は、ぼそりと呟いた牙呪丸を、ぎろりと睨んだ。