「・・・・・・牙呪丸。とっとと始末しちまいな」

 口元の血をぐい、と拭い、狐姫は小菊から視線を切った。
 そして、上を向くと一声甲高く鳴いた。

「九郎様を呼んだのか」

 牙呪丸が男を投げ出しながら言った。
 男が地に倒れたときには、牙呪丸の下半身は、普通のヒトのものに戻っている。

「死体の始末をつけないとだろ。あちきやお前だけでは運べない。九郎様に捨てて来てもらう」

「そうじゃな。このようなむさい男、食っても不味そうだしの」

 さらりと恐ろしいことを言い、牙呪丸は座敷に上がると、狐姫の前に腰掛けた。

 やがて店の中を、一陣の風が吹き抜けた。
 小菊が一瞬瞑った目を開けると、どこから入ってきたのか、一人の男が土間に立っている。
 身体の大きな、やけに肌の色の黒い男だ。

「玉藻。久しいのぅ」

 男が口を開いた。
 どこか不思議な空間から響いてくるような声音だ。

「お呼び立てしてすまないね。そこに転がってるモノの始末をお願いしたいんだけどね」

 狐姫の言葉に、男はちらりと足元に視線を落とした。

「ふむ。この男はわしの祠の前にでも捨てて、後は川にでも放り込むか」

「頼んだよ。また杉成でも、お供えに行かすからさ」

「何、千の旦那にゃ、しょっちゅう世話になってる。気にするでない」

 言いながら、男は狐姫が喉笛を噛みちぎった男を担ぎ上げた。
 後の者には、ひょいと手を動かしただけで、全員の身体が浮く。
 そのまま再び、男は風と共に姿を消した。