「な、ななな・・・・・・」

 頭の男が牙呪丸を見て、声を戦慄かせた。
 牙呪丸の攻撃を逃れた残る二人も、腰を抜かしたようにへたり込んでいる。

「ば、化け物っ!」

 男の叫び声に、狐姫が眉を顰めた。

「どいつもこいつも。か弱い女子を畜生の餌食にしようなんて考える、うぬらのほうが、よっぽど化け物だっていうんだよ!」

 怒鳴ると同時に、狐姫は床を蹴った。
 頭の男の喉笛に食らいつく。
 狐姫が男の背後に降り立ったときには、男は首から夥しい血を噴出して、その場に倒れていた。

 図らずも腰を抜かしていた二人の前に着地した狐姫の姿に、男二人は泣き喚く勢いで悲鳴を上げた。
 狐姫の口元は、べったりと血に汚れている。
 さらに噛みちぎった首筋の肉片を吐き出したとき、鋭い牙が覗いたのだ。

「ひいぃっ! 助けてくれぇ!」

 恥も外聞もなく、男は叫び声を上げながら、ずりずりと地を這って逃れようとする。
 だが如何せん腰が抜けているため、身体が言うことを聞かない。

「情けないのぅ。大の男が泣きながら地を這うとは」

 牙呪丸が、男に近づきつつ言う。
 お前だって呶々女呶々女と、まるで雛のくせに、と内心思いながら、狐姫は腰を抜かす男二人を見た。

 一人は牙呪丸に近づかれて、身も世もなく取り乱しているが、残る一人は呆けたようにぼんやりと、虚ろな目を空(くう)に向けている。
 心がどうか、なってしまったらしい。