始末屋 妖幻堂

 一瞬ぽかんとした後、男は焦ったように、一歩前に出た。

「な、何でだ? あんただって、借金踏み倒しての足抜けなんざ、とんでもねぇって言っただろ?」

「ああ。あんたらの言い分は、筋が通ってるよ。けどね、それは伯狸楼が真っ当な店だった場合の話さね。いくら傷物になったからって、畜生相手の見世物にするなんざ、それこそとんでもないことさ」

 ひく、と男どもの顔が引き攣る。

 束の間の沈黙の後、男どもは意を決したようだ。
 正面の男が軽く皆に目配せする。
 それに応え、再び男どもは散開した。

「・・・・・・ち。そこまでばれてんのかい。仕方ねぇな。裏店があるってのだけだったら、まだマシだったんだが、さすがにそこまで漏れてちゃ、このままにゃしておけねぇ」

 先程までとは違う、純粋な殺気が満ちる。
 狐姫が、僅かに眼を細めた。
 さっきまでは、生かして伯狸楼に連れ込むことも考えていたようだが、今はもう、ここにいる全員の口を封じる気だ。

「ほ。さすがに御法度事が漏れるのは、まずいという気はあるのかえ」

 辺りに満ちる殺気にも怯まず、狐姫は馬鹿にしたように笑った。
 ほとんど空気と化していた牙呪丸が、珍しくやる気を出したように狐姫を見る。

「太夫。この者ら、始末しても良いのか?」