始末屋 妖幻堂

「我を伯狸楼に連れて行くとか抜かしておったな? 連れて行ってくれても構わぬのだぞ?」

 戸にかけた手を掴み、にやりと口角を上げる。
 そして次の瞬間、牙呪丸は川縁でしたように、己の身体を男に巻き付けた。

「先は質問があった故、殺さぬよう手加減したが、今はもう聞くことは聞いた。どうやらお主らを始末せねば、呶々女は帰って来られぬようだ」

 ぎりぎりと、牙呪丸は男の身体を締め付ける。
 じわじわと締め上げるため、恐怖は半端ない。
 締め上げられている男は最早、呻き声も出せずに苦悶の表情で歯を食いしばっている。

「くくく・・・・・・。我は『絞め殺しの牙呪丸』ぞ。愚か者どもめ。存分に苦しむが良い」

 やがて、ばきっという乾いた音と共に、男は口から泡を吹いた。
 身体から力が抜けた男を、牙呪丸はやっと解放する。

「殺っちまったかい? 後の始末が面倒だわさ」

「さぁのぅ。ヒトなど、どの程度で壊れるか、ようわからん。身体の芯が砕けたようじゃから、ま、動くこともままならぬのは確実じゃ」

 この修羅場で、どこかのんびりと言う狐姫と牙呪丸に、男どもは心底ぞっとする。
 ここにきてやっと、この小間物屋が普通でないことに気づいたらしい。
 初めよりも明らかに、勢いがなくなっている。
 だが、ここでおめおめ帰ることを許すほど、彼らの雇い主は甘くないのだ。