それに、と男が凶悪に笑う。
「運良く借金もチャラになって年季が明けても、むしろそっちのほうが悲劇だぜ。喜んで店を出た途端、俺らに仕事が回ってくる」
つまり、そういう『運の良い』娘は、店から出た瞬間に、楼主の意を受けた破落戸に、命を奪われるということだ。
「賢い女は、あそこから出ようなんて、端から思ってないぜ」
「なるほどね」
ふ、と狐姫は息をついた。
伯狸楼から出ることは、死に直結する。
逃げ出しても、勤め上げても。
それなら非道な扱いを受けようとも、大人しく受け入れるほうがマシかもしれない。
「でもねぇ・・・・・・」
ゆらりと、狐姫が立ち上がる。
「己がやられて嫌なことは、他にもしないってのぁ、ヒトの世の決まり事じゃないかえ」
立ち上がっただけなのに、狐姫を包む空気は一変している。
目の前の男は、若干気圧されたようだが、それを認めたくないためか、さらに一歩、座敷に足を踏み入れた。
「はっ。そんな綺麗事、知ったこっちゃねぇな! 姉ちゃんも、そろそろ黙ったほうが身のためだぜ。それとも黙らせないといけないか? ん?」
にやりと笑いながら、男が狐姫の襟に手をかける。
狐姫の目が、僅かに細められた。
そして次の瞬間、男の手を振り払うように、狐姫は、さらっと右手を左から右に動かした。
「運良く借金もチャラになって年季が明けても、むしろそっちのほうが悲劇だぜ。喜んで店を出た途端、俺らに仕事が回ってくる」
つまり、そういう『運の良い』娘は、店から出た瞬間に、楼主の意を受けた破落戸に、命を奪われるということだ。
「賢い女は、あそこから出ようなんて、端から思ってないぜ」
「なるほどね」
ふ、と狐姫は息をついた。
伯狸楼から出ることは、死に直結する。
逃げ出しても、勤め上げても。
それなら非道な扱いを受けようとも、大人しく受け入れるほうがマシかもしれない。
「でもねぇ・・・・・・」
ゆらりと、狐姫が立ち上がる。
「己がやられて嫌なことは、他にもしないってのぁ、ヒトの世の決まり事じゃないかえ」
立ち上がっただけなのに、狐姫を包む空気は一変している。
目の前の男は、若干気圧されたようだが、それを認めたくないためか、さらに一歩、座敷に足を踏み入れた。
「はっ。そんな綺麗事、知ったこっちゃねぇな! 姉ちゃんも、そろそろ黙ったほうが身のためだぜ。それとも黙らせないといけないか? ん?」
にやりと笑いながら、男が狐姫の襟に手をかける。
狐姫の目が、僅かに細められた。
そして次の瞬間、男の手を振り払うように、狐姫は、さらっと右手を左から右に動かした。


