始末屋 妖幻堂

「言われんでも、我は元々伯狸楼に行く予定だったというに。邪魔をしておいて『連れ帰る』とか、全くお主らの言うことは、訳がわからん」

「・・・・・・お前の言うことのほうが、さっぱりわからんわ!!」

 どこまでも我が道を行く牙呪丸に業を煮やし、男が匕首を振り上げる。
 しかしその匕首は、牙呪丸に振り下ろされる前に、男の手から弾き飛ばされた。

 驚いた男が匕首の落ちた先を見ると、匕首と一緒に小さなお手玉が落ちている。
 ゆっくりと、男が店内を見回すと、いつの間にか狐姫の前に、小さな少女が立っているのに気づいた。

「な、何だぁ・・・・・・?」

 狐姫が太夫なら、少女は禿といったところか。
 真っ黒なおかっぱ頭の左右を組紐で縛った少女は、無表情で男を見つめている。
 その白すぎる小さな手には、お手玉が一つ。

「ガキが、邪魔すんじゃねぇよ。お前も大人しくしてねぇと、痛い目見んぜ!」

 男が泡を飛ばして噛み付くが、少女は相変わらず無表情。
 そもそも、どこから現れたのか。
 男たちが店に入ったときには、牙呪丸と狐姫、それに杉成の三人しかいなかったというのに。

「けっ。全く、気色悪いところだぜ。さぁ、さっさと片付けて引き上げるぜ!」

 やっと何となくでも、この店に漂う不気味な空気を感じたらしい。
 男は後ろの仲間に声をかけると、上がり框に足をかけた。