カガミは慌てて首を横に振った。

「とんでもない! これは大事に取っておきます」

「…そうか。じゃあ行くか。リリス、お前はどうする?」

「わたしも行きます。ああ、カガミ。この帽子、後で家に届けてくださいな」

リリスは黒い帽子をカガミに渡した。

それは黒い糸で作られた帽子で、つばの部分が広く、麦わら帽子に似ている。

「はい、かしこまりました」

値段のことを言わないところを見ると、リリスはどうやら常連客の一人らしい。

しかし帽子を見てマカは一歩下がり、ミコトに聞いた。

「あの帽子、人毛か?」

「はい。苦労したんですよ~。アレだけの髪の長さと量、そして質が良いものって滅多にないんですから」

ひくっ、とマカの表情が歪んだ。

「…ディスプレイに飾ってあるストールは?」

「生地はそのまま絹ですけど、赤い刺繍糸の色は人間の血液です。いやぁ、あそこまで染め付けるの、大変でしたぁ」

ミコトのあっけらかんとした姿とは反対に、マカは青い顔色で額を手で押さえた。

「……そうか。ああ、ミコトにも名刺を渡しておく」

「おや、どうも。では今夜にでも携帯番号をメルアドでお知らせしますので」

「ああ、待っている。行くぞ、リリス」

「はーい。では失礼しました」

「邪魔したな」

そうして二人は店を出ていった。