六花の約束

そんなことを思っていた、その時。

突然、声がした。

あたしの大好きな、落ち着く声。

「姫、お支度はいかがですか」

あたしの部屋の障子は開いている。

だから、声の主が誰であるか、誰でも簡単に分かる。

「…母上」

「奥方様、わざわざ足をお運びいただき、ありがとうございます」

「姫様のお支度はもう少しですわ」

母上があたしに会いに来てくれるなんて珍しい…と思ったら、見合いだからか。

見合いで、あたしが着飾らなければ会いに来てはくれなかっただろうか。

あたしはもっと、母上と話したいのに。

「姫、綺麗ですよ」

大人の色気を醸し出しながら微笑む、母上。

親にそんなこと言われるなんて、結婚するみたい。

「…母上のほうが、いつも綺麗です」

本心を言った。

母上はおっとりとした人だ。

あたしみたいな活発な女とは正反対な。

そして、いつも美しい。

なんでもないときだって、かんざし、着物…すべて一流のもの。

あたしも頼めばそんなこと簡単にできるんだろうけど。

なにせ、あたし自身にそんな気がないんだ。

父上も母上も、あたしにもっと女らしくしてほしいと思っているもだろうか。

そんなこと一度も言われたことはないけど。

「…姫は相変わらず無自覚なのね」

くすくすと笑う。

…母上も仕草一つ一つがまさに姫、という感じ。

「いいですか、姫。お見合いは大切ですよ。相手の方がどんな方か、きちんと見極めるのですよ」

「…そんなこと、分かっています…」

母上、あたしには心に決めた人がいるのです。

思わずそう言いかけたから、慌てて止めた。

…言ってしまえたら、どんなに楽だろう。