六花の約束

「凜って呼んでほしいけど…。勝負、負けたしね。凜姫!」

「……凜姫様ですか?」

「うんっ」

にっこりと笑う。

凜姫様…。

これなら、いいか。

「……あたしのこと、名前で呼んでくれる人なんて、父上しかいないから」

「…え?」

殿しか、凜と呼ばない…?

「…日海はたまに呼んでくれるけどね」

「…奥方様は…?」

あの優しい方は、凜と呼ばないのだろうか。

「…母上は…あたしのこと、凜って呼んでくれたことなんて、一度もない…」

一度も…ない?

嘘だ…。

凜が望むことをすべて叶えていそうなあの方が…。

「…失礼いたしました、凜姫様」

「ううん。…正直寂しかったけど、蘭が呼んでくれるから、いいや!」

凜は笑っているけど、心は泣いている。

呼んでほしいんだな、凜って。

そういえば、奥方様にお会いしていない。

凜も、そんなにしょっちゅう会うわけではないのだろうか。

…そんなことはないと思いたい。

凜も、呼んでほしいって言えばいいのに、我慢してる。

いつもそうだ。

してほしいことを何も言わずに我慢して。

5歳の子供が、だよ?

甘えたいのに甘えられない。

姫だからと言う理由で、すべて完璧でいなければならなかった凜。

嫌いなことも嫌いと言えずにいる。

それでも、凜は自分の運命を認めて生きているからすごい。

俺は、今も自分の運命を認めたくないのに…。