「…蘭之介っ!」

いまだ素振りをしている蘭に、あたしは呼びかけた。

「はい?なんでしょう」

素振りをやめて、あたしのほうを向く。

「…あたしと勝負しよう?」

「…え?」

周りが一瞬静まった。

「…姫様が自ら申し込んだぞ!」

「おおーっ!うらやましい!」

「相手は親衛隊隊長かぁ!」

また騒がしくなる。

そのすきにあたしは蘭の耳元で囁いた。

「蘭、あたしが勝ったら敬語をやめて。そして……凜って呼んで」

「…姫様?なにをおっしゃっているのです?」

蘭は驚いた顔であたしをみた。

あたしはそれに構わず、続けた。

「あたしが負ければ…敬語を使おうが、なにしようが…好きにすればいい」

言っていて泣きそうになる。

負ければ、もう昔みたいになれない。

それでも、やるだけやってやる。

「……承知いたしました…」

多少困惑しながらも理解してくれた。

「…誰か審判をやってくれ」

「では、引き続き私がやりましょう」

さっきまで審判をやっていてくれた、がたいのいいおじさんが名乗りでた。

「…頼む」

「では、始めますよ」

あ、その前に…。

日海にかんざしを持っててくれるよう、頼んだ。

日海は渡されたものがかんざしだとは知らない。

「蘭之介!手加減はなしだぞ」

驚いた顔をしつつ、

「はい。もちろんです」

と言った。

「…では、真剣勝負一本、はじめっ!」

…あたしと蘭の対決が始まった。