★蘭side★

今日、10年ぶりに海瀬の領地に帰ってきた。

「……久しいな…」

帰ってきて、まず思ったのはあの人のこと。

会いたいな…。

「蘭之介、殿様のところへ行くぞ」

父上が俺を呼ぶ。

「あ、はい」

海瀬城にいくのか…。

いきなり、会えるかな…?

って、まだ心の準備が……。

って、俺はなんて女々しいことを思っているんだっ。

あの人のこととなると、今までの修業が役に立たなくなる。

「蘭之介。いってらっしゃい」

「行ってきます、母上」

海瀬城は山の中腹。

意外と距離がある。

「蘭之介よ。ここに戻ってくるのは、何年ぶりだ?」

忘れたのか、父上……。

「10年ぶりです。懐かしいですね」

「もう10年か…。早いな。お前はこんなに強くなって…」

なーにしみじみと俺をながめてんだよ。

強くなって、戻ってくるって約束したからな…。

強くなってなきゃ、あの人に怒られる。

あの人が怒っているところが想像できて、思わずくすっと笑ってしまった。

会いたい。

でも、会ってどうしよう?

もう、幼かった俺はいない。

あの人と俺とじゃあ、身分が違いすぎる。

きっとあの人は、あの約束なんて覚えていないだろう。

あんな、子供の約束…。

覚えていてほしい、なんて。

俺のわがままかな…?