六花の約束

今から10年前。

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「え?江戸にいく?」

その日は、雪が降っていた。

この地域では、「六花」という。

六花と書いて、「りっか」。

雪が、六つの花びらのようにみえるからだ。

いつものように蘭と遊んで、二人だけの秘密の場所にきたとき、突然蘭に言われた。

「うん。僕ね、凜を守れるくらい強くなって、戻ってくる」

「……やだよ」

「…凜?」

「蘭がいなくなるんでしょ?いやだよ!あたし、蘭とずっといっしょにいたい!」

泣いて、蘭を困らせた。

「…凜」

困ったように笑う、蘭。

「……凜、これ」

そう言って蘭は、かんざしを差し出した。

あたしは泣きやんで、かんざしをまじまじとみた。

「……きれい…」

「これ、凜にあげる」

幼いながらに、それがとても上等なものであると分かっていた。

「もらえないよ、こんな高価なもの」

あわてて断っても、蘭はそれをあたしに握らせた。

「凜に、持っててほしいんだ。約束の証として」

「……約束?」

「…凜…」

急に真面目な顔であたしを見つめて、蘭は言った。

「僕、強くなって戻ってくる。だから…」

いったん切って、蘭は続ける。

「……凜…、僕が戻ってくるまで、結婚しないで…?」

「……蘭?」

どうして?

どうしてそんなこと言うの?

「…凜、僕が戻ってきたら、結婚しよう?」

時が、止まったかと思った。