海から出たとたん。

凜に、抱きつかれた。

突然のことで、頭がついていかない。

波が、俺たちの足元を濡らす。

その冷たさで我に返った。

「凜姫様、濡れてしまいます!」

「そんなの、どうでもいい」

いや、よくないから!

全然よくないって!

風邪が完全に治ってない姫が、こんな寒い中…海なんかにいたら。

「帰りましょう、またお風邪を召されては大変です」

「……やだよ」

凜の呟きは、本当に小さくて。

聞き逃してしまいそうだった。

「何をしてたか、教えてくれたら戻ってあげてもいい」

…うん?

俺の聞き間違えかな?

だったら嬉しいんだけどなぁ…。

なーんて冗談は、きっと通じないから。

「凜姫様の、かんざしを探してました」

正直に言った。

すると凜は少し体を離して、驚いた顔で俺を見た。

「見つかったの!?」

「たぶん…これではないかと」

俺はそう言って手の中にあるものを差し出そうとした。

でも、その前に凜のきつい口調で遮られた。

「だから海の中なんかに入ってたの!?馬鹿じゃない!?」

は!?

なんで俺がそんなに言われなきゃならないんだよ!

俺は凜のためを思って…!

「かんざしなんて…!蘭がこんな無茶するなら、言うんじゃなかった…」

…無茶?

どこがだよ。

お前のに比べたら、全然だっつーの。