六花の約束

「…あなたのためを思って、姫と呼んだ。あなたのためを思って、結婚なさいと言った。…あなたをどれだけ傷つけているか、何も知らなかった」

凜はただ、黙って聞いている。

「ごめんなさい、母親として最低だわ…」

「そんなことは、ないです」

凜は小刻みに震えながら、でもはっきりと言った。

「母上は本気であたしのことを考えてくださる。…少し、嫌だなと思うこともありますが」

でも、と凜は続ける。

「母上を恨んだことなどありません。ただ、寂しかっただけで」

「姫…?」

「母上は、あたしがお嫌いなのだと思っていました。そうでなくとも、快く思っていないのだと」

…凜が、本音を言っている。

甘えることを知らない、素直じゃない姫が。

「姫らしくないあたしを、認めてほしかった。凜って、呼んでほしかった…」

俺には、凜の心の叫びが。

聞こえてくるようだった。





「…母上が、名付けてくださったのでしょう?凜、と…」





微笑みながら言う凜を見て、奥方様は涙ぐんで、そっと

「凜…」

と呼んだ。

凜は幸せそうに、ふわりと微笑んだ…。

ああ…凜だ。

これなら、二人は大丈夫だろう。

俺は、俺の仕事に戻ろう。

凜のかんざしを、探すんだ。





もっともっと、凜らしくなってもらうために。