六花の約束

奥方様が泣き止むまで、殿はずっとその背中をなでていた。

「…凜は、何を望んでいるのだ」

殿は、お医者様にそう尋ねた。

「私めには、分かりませぬ。あのお方に、近しい方でないと」

お医者様がそう言った瞬間、殿と奥方様は俺のほうを見た。

…俺に答えろと、いうことか。

そんなの、俺も分かるわけない。

分かっているとしたら…

「…凜姫様は、奥方様に、名前で呼んでいただいたことがないと…おっしゃっておられました」

これが、凜の心のつかえなのか知らない。

でも、俺が分かるのはこんなことくらいだ。

「……姫には、姫らしく育っていただきたかったのです。そのためと思い…。ですがそれが、裏目に出てしまったのですね…」

奥方様は悲しそうに微笑んだ。

この方ももちろん、凜のことを想っているのだ。

決して凜が嫌いだから名前を呼ばないとか、そんなことではない。

「他には?」

「…他は、分かりません。申し訳ありません」

「いや、よい。凜のことだ…きっとそなた絡みであろう」

俺絡み?

何でそうなるんだろう。

全くもって、意味不明だ。

そんな俺を見て、殿はため息をつかれた。

「そなたらは本当に鈍感よのぅ…。もうちぃと、自分の気持ちに素直になればよいものを」

………………………はい?

え、ちょ…は?

自分の気持ちに素直に…?

俺は顔が赤くなるのを感じた。

すると殿は意味深に笑う。

ようやく気づいたか、みたいな感じで。

まさか…気づいておられたのか…。