六花の約束

嫌だ、母上に嫌われるのは。

ただでさえ、あたしのこと、名前で呼んでくれないのに…。

「嫌だっ、やめ…っ…」

「髪だし、痛くねぇよ」

「あ、でも髪は女の命かぁ」

そう言って、けらけら笑っている、男たち。

「…じゃあ、切るよ?」

もう、逃げられない…。

諦めた、その時。

「やめろっ!その子に手ぇ出すんじゃねぇ!」

男の子の、声が聞こえた。

あたしは声のしたほうを見た。

あたしと同じくらいの男の子が、走ってきた。

そして、あたしの髪を掴んでいる男に、噛みついた。

「いってぇ!」

あたしの拘束は外れた。

「大丈夫?」

男の子は、尻餅をついてしまったあたしの顔を覗き込んで、心配そうにしている。

「大丈夫…ありが…っ」

あたしはこらえられなくて、ぽろぽろと泣いてしまった。

「え!?え…とにかく、逃げよう!」

男の子は困惑しながら、あたしを立たせて、走った。

あたしの手を、掴んだまま。

「待てぇ!」

後ろから、男たちが追いかけてくる。

「…城に、逃げよう。…姫さんでしょ?」

「…うんっ…」

なんで男の子が知っているのかは分からなかった。

けど、あなたの手が、温かかったから。

あなたの眼差しが、優しかったから。

何も…考えなかった。