☆凜side☆

季節は、暑い夏を通し越して、秋になった。

秋は比較的過ごしやすい。

あの日…あたしが襲われそうになった日以来、何も起きてない。

起きたとしても、蘭がずっとあたしのそばにいてくれてるから、安全なんだけど…。

「蘭…城下町に行きたい」

「だめです。…これが終わってからにしてください」

…あたしが今やっているのは。

お花を生けている。

いわゆる、華道というやつ。

もちろん、あたしにそんな趣味はなくて。

極力あたしを城の外へ出さないようにと、母上が考えたもの。

…いい迷惑だよ、誰か分かんないけど。

「蘭~。あたし苦手なんだけど…」

「本当ですか?…綺麗だと思いますが」

…実際、あたしは苦手、というより嫌い。

こういう、細かい作業が。

できるよ、できるんだけど…好きではない。

「じゃあ、蘭もやってみなよ」

なんとなく蘭がやったのを見てみたかったし…。

あたしだけこんなことしてるのって、なんか…不公平に感じる。

あたしがそう言うと、蘭は渋い顔をした。

「…嫌?」

あたしは蘭の顔を覗き込むようにして、聞いた。

蘭の方が座っていても背が高いから、自然とそうなってしまう。

「…う…嫌…ではないですが…」

「じゃあ、やってよ」

「……分かりました…」

蘭はほんっとーに嫌々やり始めた。

そういえば…蘭って器用だっけ、不器用だっけ。

…どうなんだろう。

器用は人って、何やらせてもうまいからな…。

うらやましくはないけど…必要ないし。

あたしには野山を駆け回ってるほうが、性に合ってる。