「……ど…うして…?」

衝撃的すぎて、途切れ途切れにしか話せない。

泣き出しそうなのをこらえて尋ねる。

「…ら…ん……」

彼の名を呼んだ。

「…はい」

こたえてくれたのが信じられなくて、もう一度呼ぶ。

「蘭」

「はい」

さっきと寸分違わぬ声でかえす、蘭。

「蘭っ、蘭…蘭……らん…」

耐え切れなくて、立ち上がって蘭の前へ行く。

「どうなさいました、姫様」

大好きだった高い声は、声変わりをして心地よい響きをだしている。

「……蘭…」

「はい」

呼んだはいいものの、なにも言えなくて、お互いに見つめ合っていた。

沈黙を破ったのは、蘭のほうだった。

「…相変わらず、泣き虫ですね。姫様」

「…え?」

笑いながら言われた意味が分からず、自分の頬に触れてみた。

「あ……」

濡れている。

「……泣き虫だったのは蘭のほうだろ」

「…そうでしたか?私には、姫様のほうが十分泣き虫だったと」

笑みを崩さずにずけずけと言ってみせる、蘭。

「……泣き虫だったのは、蘭の前だけだよ。蘭が江戸に行ってからは、一度も泣いてない」

そう。蘭は10年前、剣術修業のために江戸へ行った。

あたしは弱さを見られたくなくて、泣かない子として育った。

でも。

「…蘭が優しすぎるから、蘭の前では泣いちゃった」

好きだから、なんて言えるわけもなく、もう一つの理由だけ言った。

「……光栄です」