やはりできない。
反射的に目を閉じてしまうほど、冬月を傷つける場面なんて見たくなかった。
ただ手元には僅かな感触。軽くても明らかな、肉を裂いた手応えで秋月は仰々しく後ろに下がった。
「っ、はあ……!」
傷つけてしまった後悔が体を巡る。
秋月とて感情ある人間だ。理屈では最良を思い付いても、実行できる冷酷さはない。
なんて、恐ろしいことをしたんだろうか。
一秒でも冬月の右手を斬ろうとし、一ミリでも傷つけてしまったことに秋月は手を震わせた。
「兄さんが、傷を……」
痛みはないほど浅くとも、傷つけられた事実に冬月は足を止めた。
ただ、今度は愕然とではない。考え込み、己が思考に浸るように――にっこりと微笑んで。


