猫が引きずっていたものがそれ。小さな体に似合わない、やけに大きな出刃包丁。牛やマグロの解体にしか使わない包丁を掲げるなり、猫は有無を言わさず言いもせず、こちらに向かってきた。
「兄さん……!」
冬月に叫ばれるもなく、秋月が刀を抜く。
ただ抜いたわけではない。居合いによる一手は猫の包丁を弾く。
包丁の重さに耐えられないのか猫は弾かれた包丁と共に跳ねた。
木にぶつかり、足を折ったか動けないよう。
見るからに決まった勝敗だ。あっさりしすぎて肩透かし気分を味わうが、秋月には一つ解せない点があった。
包丁を弾いたとき、なぜ猫の手から離れなかった。


