GEDOU―樹守る貴公子―



『若造が』


 幻周は吐き捨て、手を前に押し出すように出した。

 その瞬間、空気が歪んだ。


 ぐわり。


 熱の無い溶かした鉛を捻ったような、そんな感覚だ。次に瞬いた時に気付かされた。結界が破られた、いや、歪められたのである。


 どぅん。


 天冥の身体が大きく上に跳ねる。


「ぐわっ!」



 どがしゃん、と言う音を立てて、破れ屋の荒廃した庭に叩きつけられる。


『九字の結界は壊せぬが、歪める事ならできる』



 離れているのに、幻周の声は頭痛かと思うほど頭に木霊していた。


「っきっさまぁ!」


 まだ若造の、しかも幼い心を秘めている天冥は、すぐに起き上がって築地を跳び越し、幻周の前に立つ。

 そして、天冥は目を瞠った。


「・・っあ゛・・・」


 明道が、邪魅の群れに飲み込まれてゆく。