「明道、逃げよ!」


 天冥は前に出でて明道を背に隠す。



『ほぅ・・・外道の貴公子殿が貴族を庇うか』

「こいつは別腹じゃ」


 いや、別腹もなにもお前は俺を食ったことが無かろうが。

 この状況の中で、明道はふとそう言いたい欲求に駆られる。駆られるが、言わない。天冥の言葉は、たぶん売り言葉に買い言葉だろう。



「お前、邪魅など使うて、何をするつもりじゃ」

『知りたいか?』

「お前の欲望なぞに興味は湧かぬが、俺にもちぃと理由があってな」

『ならば、教えてやろう』

「ありがとうよ」

『俺は、山が手に入れたいわけではない』


 幻周はさも凄絶に微笑んで見せた。

 その微笑が天冥には気に障って仕方が無い。額に血管の青筋が浮く。


『俺が手に入れたいのは、力さ』

「力、とは?」

『邪魅どもに、この日本の神を喰わす』

「なるほど、貴船の水神や万物の神を弱い順に喰わせ、どんどんと勢力を上げて行く、ということじゃな」

『そうさ。その第一歩として、あの山の御霊、そして桂川が閉じ込める神霊が最適だったのだ』