「それで、誰を呪詛すると?」

「・・・藤原(ふじわらの)明道(あきみち)」

「それは、政敵かなにかで?」

「・・・もうじき、唐国から帰ってくる。わが息子じゃ・・・」


 天冥は少しだけ瞠目した。


「息子を?」


 よく見れば、目の前の男はしわが多く、白髪も中年の男よりも多いと見られる。


(あの子供らは・・・孫か)


 まぁ、どちらでもいいけれど。

 天冥は思うと「なにゆえ、息子を?」と問う。


「奴を生かして、ここに帰すのはならぬのだ」

「なにか、剣呑なものでも持ち帰ってくるとでも?」

「そうじゃ」


 その剣呑な物とか言う物には、天冥は興味は無かったので、あえて問わなかった。

 じっと男を見る。

 今にもこめかみから汗が流れ出そうというか、緊張した様子であった。


(こいつ・・・なにか企んでるな)


 表情からして、なにか天冥に悟られてはならぬ何かを抱えている様子であった。

 しかし、天冥は問う様子もなく「わかった」とだけ答えた。なぜなら、自分には関係がないであろうことだからだ。

 天冥が関わるのはただ一つ。

 その明道とやらを呪詛するだけだ。