GEDOU―樹守る貴公子―



 多優は、斬首するために外に出された時に逃げ出した。


 夜、松明や篝の火を使い、以前にも増して磨きがかかった業火術を活殺自在に操り、その身のこなしで京を奔走したのだ。


 降ってくるのは、矢の雨。


 避けきれるはずも無く、多優はいくつもの矢を背に負った。


《どうして・・・》


 当時、多優は思った。どうして自分はこんな目に、と。その時になって思った。


 何かが欲しいと我が儘を言ったわけではない。

 
 死にたいと駄々をこねたわけでもない。


 こんな小さな里は嫌だと、抜け出したいと、ぬかしたわけでもない。


 上京したいと言ったわけでもない。


 租の徴収、都の者たちからすれば決して満足にはならないことさえ、満足として生きてきただけ。


 大好きな里の友達や、家族と一緒にいられれば、それだけで充分だった。