天冥は握っていた文を見る。

 呪詛の依頼であった。

 別に貴族は嫌いなので、傷付ける事には何の抵抗もない。いや、抵抗がなくなったのだ。

 天冥はしゃがみ込むと、その木に語りかけるように呟いた。


「・・・枯れるなよ」


 ぼそり、と呟いて天冥は誰にも見せた事がない表情を見せた。



 依頼をしてきたのは、紅梅殿付近の屋敷の者だった。

 天冥がその屋敷の総門の前に立つと、同時に出てきた冠を被った男がでてくる。


「そなたか、天冥は」

「・・・ああ」


 天冥は不遜にそう言った。
 周りに聞かれてはまずいのか、冠の男の声はひどく小さい。

 天冥は官位があるわけではなく、この男を恐れる必要はどこにもないので、敬語は使わないのだ。
 いや、天冥の場合、嫌いな相手にひれ伏すのが嫌なだけかもしれない。

 屋敷に入ると、天冥は男の私室に招かれた。

 ちょこちょこと歩く冠の男に対し、天冥は大股で威光を放つように歩いた。何故そんなにも小股で歩く必要があるのだろうか、と天冥は疑問に思う。


「天冥・・・そなた、一体いくつなのだ」

「今年で二十三じゃ」

「二十三か・・・」


 男は何度か天冥を一瞥し、目を背ける。

 付け髭がずれているのだろうかと天冥は思ったが、すぐにそうではないと気づいた。