邪魅たちの視線は、一気に天冥に向かって注がれた。

 
「おのれ、何者じゃ」

「人間の分際で」

「どこぞの陰陽師じゃな」

「喰ろうてくれる!」


 わらわらと一斉に天冥めがけて飛び出してくる。しかし、天冥は豪胆にも仁王立ちして腕を組んでいた。


「そういうお主らは、俺のことを知らぬのか」

「なんじゃと?」

「そこらの鬼共に聞いてみればよいさ。『外道の貴公子』について――な」


 邪魅たちは、あたかも度胸知らずの哀れな人間を見るような目で天冥を見やってから、目の前にいる人間についても知らず地を蹴った。

 
「命知らず」


 ぼそりと呟くと、天冥を右手を横に振った。

 炎がそれに続くように右に形を変えた。炎が邪魅たちを薙ぐと、炎の中から「ぎゃわっ」と言う濁った悲鳴が小さく聞こえる。


「うひっ」

「なんじゃ、あの陰陽師」

「退け、退けぃ」


 残った邪魅は仲間の燃えかすを見て、沼の水にも似た呪力を発しながら宙を駆けて行った。