暴言を吐いているとも、安心させてくれているとも付かぬような言い方である。

 天冥の層がつらなったような瞳には、先に見えるわらわらとしたものが映った。

 百鬼夜行に似てはいるが、そうではない。少数の鬼が道を通過している。


 しかし、よく見てみれば歩いている様子はなく、何かの周りに群がっていると見えた。


(なんだありゃあ)


 天冥は疑問に思うと、明道の手を引き、少しだけ鬼の群れに近づいた。


「すまん、少しだけ奴らに近づくぞ」

「う、うむ。分かった」


 ほう、鬼に近づくというのに、なかなかいい度胸をした男ではないか。天冥は感心した。

 あと十歩ほど歩けば鬼に接触するという距離まで、二人は近寄った。
 
 群がる鬼達の中心にいたのは、一羽の大きな鴉だ。いや、鴉とは思えぬほど大きすぎる。
 
 羽を広げれば十九尺はあり、体は漆黒だが、羽の先は不気味な赤紫色、黒い嘴を持ち、通常人に聞こえぬその声で鬼達を威嚇していた。

 いや違う。あれは鬼に似ているが、邪魅。


(ふぅん・・・鴉の化生か)


 つまり、鴉の姿をした妖をあらわす。見る限り、邪魅達を相手に一戦交えているようであった。


 なるほど、仲間を食われて独りぼっち、と言うわけだ。


「おのれ、たかが鳥妖の分際で」

「焼いて食ろうてやるわ」

「我らにたてつきおって」


 この辺りに邪魅などいないはずだ。

 だとすると、あれこそが幻周の操る邪魅だろう。