雨に打たれた葉の先から、雨水が次々に零れ落ちるように。
 その涙は、頬を伝い無駄な肉の無い顎や、筋の通った鼻の先から下に落ちた。


「なっ、急に泣かんでくれ」


 慌てふためいて明道が言うが、天冥の口から出たのはいつも通りの言葉だった。


「俺が泣く?馬鹿を言うな」

「えっ」


 一度目を擦ると、天冥は泣いていなかった。不謹慎さの混じったような顔で明道を見つめている。


「明道、頭だけでなく目までやられたか」


 さきほどの光景が無ければ「頭も目もやられていない」と言い返すところだが、明道はあの幻影のせいで狼狽していたため、即座に言い返しはしなかった。


「俺にとっての不都合は分かったろう。帰るぞ」


 天冥は、出会った頃からある「人に対する忌々しさ」をたっぷり含んだ目で明道を一瞥し、背を向けてゆっくりと歩き出した。

 彼のまとう空気は、色で例えるなら『青』だ。暗く底なしの海のようだが、沼のように這い出る気力を失わせるような、空気。


(・・・そうか・・・あれは)


 あの現実味のある幻の正体が、明道には分かった気がする。

 あれは『天冥の顔』だ。