「そうだ」
そう言う天冥の顔は、無表情であった。方術を使う時と、全く同じ。
「これが、俺が依頼を放棄した理由と、俺の不都合の内容じゃ」
「この桃が・・・?」
明道はまじまじと桃の木を見つめた。
その桃の木には、天冥が持っている呪符と同じものが貼られている。
天冥はそれを躊躇いなく剥がすと、持っていた呪符を貼り付けた。乱暴にではなく、優しく労わるように。
「例え破邪の桃の木といえど、こいつはまだ小さい。その上に邪魅が山の支配をもくろめるほど強大なものなら、こいつはすぐに邪気に蝕まれる」
「では、天冥にとっての不都合とは」
「この木が、邪気によって蝕まれる事じゃ」
天冥は烏帽子を外し、髷を取った。赤毛混じりの細い髪が肩に垂れる。
「この木に、何か思い入れでもあるのか?」
「まぁな」
天冥は素っ気なく答えた。
「俺はこの木を、何があっても守ると決めておるのだ」
明道は、天冥の口から初めて「守る」と言う言葉を聞いた。


