GEDOU―樹守る貴公子―



「ここは・・・」


「お前が守りたき山さ」


 そう言って天冥は山道をいとも軽々と進んでいった。

 道路整備すらされていないこの山だというのに、天冥の軽い足取りとその速さが落ちる事はない。

 体力すら減っている様子は無かった。

 風に煽られ、木々がさわさわと葉の擦れる音を立てた。


「天冥は」

「どうした」

「どこかの武官だったのか?」

「いや、別に」


 その時、天冥はほんの少しばかり眉根を寄せた。


「幼い頃、山で遊んだ事が多かった。それだけじゃ」

「山で?」

「ああ。兎や動物を捕まえたり魚を釣ったりしてさ」

「捕まえて、どうしたのだ」

「捕まえた、というなら、後は食うだけではないか」

「えぇっ?」


 当時、仏教の広がりにより、貴族の間では肉を食う者は少なかった。


 動物を狩って喰らうのは、農民の辺りだと言われていたのである。